座りすぎが寿命を縮める理由とその対処方法
あなたは座りすぎていませんか?
突然ですが、あなたは座りすぎていませんか?
今回は、近年テレビや書籍などで紹介し始められている「座りすぎの健康低下リスク」について、お伝えしたいと思います。
「座りすぎ」
この言葉がキーワードになっていますが、現在、いろいろなことが便利になり、体をほとんど動かさなくてもいろいろなことができる、楽しめる時代になりました。
現代人は、一日の中で座っている時間が過去の人類に無いほど長くなっています。
そして驚くことに、われわれ日本人は、世界でトップの「座りすぎ」国民のようです。
出典:産経新聞
専門的には「座位行動」といわれている行為ですが、この「座位行動」には、座っている状態はもちろんですが、睡眠時間を除く横になっている状態も含みます。
「座位、半臥位、もしくは臥位の状態で行われるエネルギー消費量が1.5 METs以下のすべての覚醒行動」と定義されています。
その「座位行動」の時間が長すぎるということが、今提起されている「座りすぎ」問題です。
テレビを見ている時間、スマートフォンをいじっている時間、本を読んでいる時間、デスクワークをしている時間、通勤電車の車内で座っている時間、車を運転している時間、食事をしている時間・・・
これらの時間、ほとんどの場合、いわゆる「座位行動」といわれる時間になります。
どうでしょうか?
かなり「座りすぎ」ていませんか?
しかも、新型コロナウィルス感染予防対策による最近の自粛生活で、座りすぎの傾向は全体的にさらに高まっていると考えられます。

「座りすぎ」は体に良くない
そのような「座位時間」が、長ければ長いほど、健康を害する、病気になる可能性が高くなるという研究結果が多数出てきています。
具体的には、糖尿病、高血圧、心疾患、脳梗塞、ある種のがん、さらにはうつ病や認知症の発症リスクを高めると言われています。
それが「座りすぎが寿命を縮める」といわれるゆえんです。
この座りすぎの健康低下リスクについて、まだ皆さんの中であまり認識されていないかもしれません。
喫煙よりも怖いともいわれる「座りすぎ」ですが、まだ一般的にはあまり知れ渡っていません。
なぜ座りすぎると健康を害するのでしょうか?
皆さんは「抗重力筋」という言葉を耳にしたことはありませんか?

地球の重力に対して姿勢を維持するために使われる筋肉の総称なのですが、座ったり寝転がったりしている時には、足にある抗重力筋はほとんど使われない状態にあります。
反対に、立ったり、歩いたりしている時には足の筋肉がよく使われます。
太ももには大腿四頭筋という大きな筋肉がありますし、ふくらはぎの筋肉(腓腹筋)などは重要な筋肉です。
また、抗重力筋には入りませんが、太ももの裏側の、通称「ハムストリング」といわれる筋肉群は、アクセル筋などとも呼ばれ、歩く時によく働く筋肉です。
心臓から全身に運ばれる血液は、足の筋肉が働くことによってポンプ作用となり、スムーズに血液を心臓に戻します。
つまり、足の筋肉を働かせないことは、血液などの循環を滞らせるということになるのです。
わかりやすいのがエコノミークラス症候群ですね。
飛行機などで長時間座った姿勢でいることで主にふくらはぎの静脈に血栓ができることがあります(深部静脈血栓症)。また、この血栓が肺にまで到達し肺の血管を詰まらせることもあります(肺塞栓症)。
この症状が起きるのはもちろん飛行機の中でだけとは限りません。家の中においても同様に長時間じっと座っていればそのリスクはほとんど変わりありません。

また、血流が悪くなるということは、エコノミークラス症候群だけではなく、体内の老廃物の滞留により引き起こす様々な病気や症状があります。
人は体を動かすことで血流を促進し、老廃物を体外に排泄するわけですが、じっとしている時間が一日のうちで長ければ長いほど、その機能はよく働いていないということです。
このような理由から、「座りすぎ」が健康リスクを高めると考えられています。
東洋医学では「久坐は脾を傷る」
東洋医学的には「座りすぎ」はどのように考えられるのでしょうか。
東洋医学には「五労」という考え方があります。「五労」とは、いうなれば生活習慣による過労を5つに分類したものです。
そしてその5つがそれぞれ東洋医学的臓器の分類である「五臓」の消耗に対応するのですが、「五労」の中に「久坐」があり、「久坐は脾を傷る」と言われています。
「久坐」とは、長い時間座ってじっとしていることです。まさに「座りすぎ」のことですね。それにより、五臓の一つである「脾」の機能を弱めます。
「脾」の機能は、六腑(内部が空洞の6つの内臓)の「胃」と強く関連しています。「脾」の機能が失調することで、飲食物の消化吸収、水分代謝、気血の生成などに異常が現れるとされます。
「座りすぎ」の健康低下リスクを減らすには?
「座りすぎが良くないのはわかった。じゃあどうすれば良いの?」
まずは、自身の座りすぎ、じっとしている時間がどの程度あるのか自覚することから始めると良いかと思います。
一度、ご自身の平均的な一日の座位時間を記録してみましょう。
例えば、
朝食(20分)、通勤電車(40分)、午前のデスクワーク(2.5時間)、昼食(30分)、午後のデスクワーク(3.5時間)、帰宅中の電車(40分)、夕食(30分)、夕食後のテレビ視聴やスマホ、音楽鑑賞、団らんなど(2.5時間)・・・
これで合計約11時間の座位時間となります。
たぶん自分で思っている以上に座っている時間があるのではないでしょうか?
オーストラリアのある研究では、1日11時間以上座っている人は、4時間未満の人より死亡リスクが40%高まるという結果が出ているそうです。
これを聞いただけで、座っている時間を意識的に減らそうという気持ちになりませんか?
その上で、普段意識するべき具体的な対策としては、
座位時間の途中で立ち上がって少し動くということ、座ったままでできる足の体操を座位時間の中に定期的に取り入れることなどが考えられます。
日本での「座りすぎ」研究の第一人者、早稲田大学の岡浩一朗教授は、座位時間30分ごとに1回のペースで立ちあがり2~3分でもいいから動くこと、また、デスクワークでは、高さを調整できるスタンディングデスクの導入を勧めています。
座位時間を減らしてその分を睡眠に充てることのメンタルヘルス効果
昨年、興味深い研究結果が発表されました。
明治安田厚生事業団体力医学研究所がオフィスワーカー約1000人を調査分析した結果、平日の睡眠時間が長い人ほど、心理的ストレスが低く、ワークエンゲージメントが高かったこと、また、得られたデータをもとに統計学的予測をした結果、職場での座位行動や低強度身体活動(1.6~2.9METs)を60分減らし、その時間を睡眠にあてると、メンタルヘルスの不良が11~26%程度改善する可能性が示されたそうです。
(Compositional data analysis of 24-hour movement behaviors and mental health in workers:Prev Med Rep. 2020 Sep 29;20:101213)
日本人は世界一睡眠時間が少ないと言われています。
そして、オフィスワーカーは座位時間が多い業種です。そのため、職場での座位時間を減らして、その時間を睡眠に充てることは有効と考えられます。特にメンタルに良い効果が得られるようです。
座位時間の合間にはこまめに立ち上がって体を動かす。さらには、睡眠時間が短い人は座位時間を減らした分を睡眠に充てる。
こういったことを意識して取り組むことが、こころとからだの調子を良くする秘訣の一つなのではないでしょうか。
参考文献
岡浩一朗「長生きしたければ座りすぎをやめなさい」ダイヤモンド社 2017
投稿者プロフィール

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鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師、スポーツ科学修士
早稲田大学睡眠研究所 招聘研究員
東洋医学的な身体観に惹かれ、早稲田大学人間科学部卒業後は鍼灸マッサージ師を志し、資格を取得。
これまで、主に介護が必要な方への施術をのべ1万5千人以上に行うと同時に、介護の現場に携わる多くの施術師育成の実績を持つ。
現在は高齢者の睡眠改善のための身体ケアについての研究と実践にも取り組んでいる。
プライベートでは、趣味と実益(メタボ予防と自身の将来の介護予防)を兼ねて、学生時代に熱中した空手を数年前に再開。
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