鍼治療で睡眠の質が高まる理由【自律神経への効果を解説】
こんにちは。CINQ(サンク)の高橋裕美です。
突然ですが、ご自身の睡眠に満足していますか?
「眠るまでに時間がかかる」
「夜中に目が覚める」
「起きた時にスッキリしない」
と感じることはないでしょうか?
そんな方は、鍼灸治療を試してみると良いかもしれません。
鍼というと、肩こりや腰痛などの痛みを改善するイメージが強いかもしれませんが、実は睡眠の質の改善も期待できます。
これは私の臨床経験上ですが、鍼や灸を行った日によく眠れるという患者さんや、鍼灸治療を継続することで日常的な睡眠の悩みが改善する患者さんはとても多いです。
睡眠と自律神経の関係
まず前提として、寝つき良く、深く眠るためには、
- 入眠時に深部体温(体内の温度)が低くなっていること
- 脳のスイッチを「休む」モードに切り替えられていること
が重要だと言われています。
現代の日本は、夜遅くまで明るかったり、一日中パソコンやスマホを使用していたりと、脳を興奮させる刺激が身近にたくさんあります。
このような強い刺激を受け続けていると、いわゆる自律神経の乱れが起こります。
自律神経は、体温調節や脳のスイッチの切り替え時に、重要な役割を担っています。
そのため、自律神経が乱れると、睡眠にも支障が出てきてしまいます。
自律神経とは?
自律神経とは、私たちが自分の意思でコントロールできない部分に脳からの命令を伝える電線のようなものです。
例えば、心臓を動かす、食べ物を消化する、体温を調節するといった生きるためになくてはならない働きは、自分の意志ではコントロールできません。
このような内臓の働きや、血管の収縮や発汗による体温調節、ホルモンや代謝の調整などは、自律神経が脳からの命令を伝えることで可能になります。
自律神経には、活動時に活発になる「交感神経」とリラックス時に活発になる「副交感神経」があります。
交感神経は心臓や血管を収縮し、内臓を弛緩させる働きがあります。そのため、交感神経が働くと、血圧は高まり、心臓の働きは活発になり、消化機能は抑制されます。
つまり、「働く」のに適した状態になります。
逆に副交感神経は心臓の活動を抑制し、内臓の筋肉を収縮させる働きがあります。そのため、副交感神経が働くと、脈はゆっくりになり、食物の消化吸収は促進されます。
つまり、体にエネルギーを蓄えて「休む」のに適した状態になるのです。
この2つはどちらも常に働いていますが、時間帯や活動状態によって、代わる代わるどちらかの働きが約30%強くなります。
自律神経が乱れるとは、どういう状態なのか?
自律神経が乱れるというのは、「働く」と「休む」の切り替えがうまくできなくなってしまった状態のことを表しています。
本来であれば、日中には交感神経の働きが強くなり、脳も「働く」モードになります。
夜には自然と副交感神経の働きが強くなり、脳も「休む」モードに切り替わって眠くなります。
しかし、常に交感神経が強く働くような生活を送り続けていると、脳が「働く」モードから「休む」モードへ上手くスイッチを切り替えられなくなります。
その結果、睡眠の質が低下してしまうのです。
また、体温は皮膚血管の収縮や拡張によってもコントロールされています。
入眠時には深部体温が下がっているのが理想ですが、交感神経が緊張すると血管が収縮して放熱できなくなるため、体温が下がりにくくなってしまいます。
手足が冷えて寝付けないという方も、自律神経が乱れている可能性があるので要注意です。
鍼治療は自律神経の調整によって、睡眠の質を改善する
鍼治療は、体の表面を刺激することで内部に起こる「反射」を利用して、効果を出しています。
特に自律神経の調整に重要な役割を果たしているのは、体性ー内臓反射です。
体性―内臓反射をとても簡単に言ってしまうと・・・
鍼の刺激が結果的に内臓に伝わって、何らかの影響を与える反応
です。
もう少し詳しく説明すると、鍼の刺激は感覚神経を通して、背骨の中を通る脊髄(せきずい)に伝えられます。
脊髄は首から尾骨まで31の節に分かれていて、それを髄節(ずいせつ)と呼びます。
鍼の刺激を伝えた感覚神経と同じ髄節から出ている自律神経に、その刺激が伝わり、最終的にはその自律神経の行き先である内臓に刺激が伝わります。その結果、内臓の動きが活発になったり、逆に抑えられたりします。
これが、体制ー内臓反射の1つ、脊髄反射です。
もう一つは、鍼の刺激が感覚神経を通して脊髄に伝えられた後、さらに脳幹(呼吸や血液循環、消化、排尿などを調節する部位)まで伝えられて反応を起こす、上脊髄反射があります。
この場合、刺激が伝わった脳幹からの命令は、自律神経を介して全身性に内臓へ影響を与えます。
体性―内臓反射では、各臓器によって異なる反応が起こります。
例えば、人に鍼刺激をした場合、迷走神経(心臓を支配している副交感神経)の活動が強くなり、心拍数が低下する反応が起こります。
鍼で刺激をする場所によって反応する臓器は異なりますが、基本的には、
鍼刺激は交感神経の働きを抑制し、副交感神経の働きを亢進する方向に作用します。
睡眠の質が低下している際に、鍼治療によって交感神経機能を抑え、副交感神経機能を活性化することで、「寝付けない」「眠りが浅い」問題を改善することができると考えられます。
まとめ
鍼治療でなぜ、睡眠の質が改善されるのか、ご理解いただけましたでしょうか?
- 鍼治療は、体に元々備わっている「反射」を利用して、副交感神経の働きを高める
- 副交感神経が優位になると、脳は「休む」モードになるので深く眠れる
- 自律神経がきちんと働くことで、眠る前に深部温度が低くなり、入眠しやすくなる
ということでした。

今回は、自律神経の調整という側面から、西洋医学的に解説をしました。
東洋医学ではまた少し違った考え方で不眠をとらえているので、下の記事も良かったらチェックしてみて下さいね。
東洋医学で考える不眠【3つのタイプと改善方法】
東洋医学では、不眠は「心」や「血」との関係が強いと考えられます。あなたの不眠はどのタイプかをチェックして、最適な改善方法をぜひ実践してみましょう。
投稿者プロフィール

- 鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師・CINQ院長
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鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師。
早稲田大学スポーツ科学部卒業後、楽天で営業の仕事をしていましたが、鍼灸師になりたくてなりたくて我慢できず、転職しました。
大正15年から続く治療院や、有名美容鍼灸サロンでの施術経験、講師経験を経て、CINQ院長になりました。
歩くのが好きで、鎌倉の友人の家まで50km歩いて行ったことがあります。
痛みのない鍼と納得できる説明がモットーです。
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